今回の記事は、MBAのカリキュラム全体を概観し、何を学ぶのか、どんな目的で学ぶのかを確認します。
MBAのカリキュラム全体像
何事も学習する際には、全体感の把握というのが重要です。シラバスですね。そこで、いつものグロービスさんの本を手に取りました。
この本は、MBAのエッセンスを1冊でコンパクトにまとめており、MBAの地図のような本です。本の内容に触れながら各教科を紹介していきますが、本からの引用部分は『』で表します。
わからない単語があるとは思いますが、さらっと全体像を掴むことをまずは優先してみてください。
1. 思考(クリティカルシンキング、データ分析)
全ての土台はここから。クリティカルシンキングでは、正しく考え、正しく物事を伝えるための型を徹底的に学びます。データ分析も、現代人の必須の能力でしょう。こちらもデータを正しく分析する型を学びましょう。クリシンとデータ分析の2つがあれば、正解のないビジネスの世界で活躍するための基礎は十分だと思います。
2. 経営戦略
戦略とは『企業あるいは事業の目的を達成するために、持続的な競争優位を確立すべく構造化されたアクション・プラン』と定義されています。
噛み砕くと、「企業が進むべき方向性を示し、それを達成するために、3Cで市場・競合を考慮した上で、自社が有利にビジネスを進めることができ、かつその有利な状態を仕組みとして継続できるような打ち手を考え、実行する」ということです。
もっとまとめると、「どうやって勝ち続けるか?どうやって生き残るか?」ということです。
具体的には、①全社戦略(ドメイン、コアコンピタンスと資源配分、事業ポートフォリオ、事業ライフサイクルなど)、②事業戦略(PEST、5 Force、バリューチェーンなど)を学びます。
3. マーケティング
経営戦略→全社戦略→事業戦略と来て、次はマーケティングです。
マーケティングとは、『顧客満足を軸に、買ってもらえる仕組み』を考える活動であると定義され、『顧客との接点となるマーケティングは、生産や営業、開発、財務、人事などの機能を統合する役割を担っている』と紹介されます。
具体的には、マーケティング環境分析(KSF、仮説と検証)、市場戦略(セグメンテーションとターゲティング、ポジショニング)、マーケティング・ミックス(4P)がポイントとなります。
マーケティングの分野として、顧客維持型マーケティング(ソフトバンク孫さんがいう「牛のよだれのような」ビジネス)、BtoBマーケティングなどがあります。
4. アカウンティング
『アカウンティングは、ステークホルダーに対して説明責任を果たすことを目的』としており、外部向けの財務会計と内部向けの管理会計に分けられます。
ここでは、財務諸表(PL、BS、CF)の読み方を学んだあと、財務諸表を使いながら指標分析をしていきます。指標分析とは、ROEやROA、安全性分析(○○比率)、株式市場の指標(PERやPBR)を使いながら企業を分析することです。
ここでは、ビジネスの世界の共通言語であるアカウンティングの仕組みを学びましょう。
5. ファイナンス
『財務の役割は、経営目標の実現(一般には企業価値の最大化)のために、①どのような投資対象にいくら投資するか、②どのような手段で必要な資金を調達するか、を判断し、実行すること』です。
つまり、①資金の運用(インベストメント)と②資金調達(コーポレートファイナンス)です。キャッシュをどうマネジメントするかが重要です。
まずはファイナンスの根本である、「現在価値の概念」と「DCF法」を学びます。続いて、投資の評価法(NPV、IRR、回収期間法)、分散投資(ポートフォリオ理論、効率的フロンティアと資本市場線、CAPM)とを学んでいきます。
続いて企業レベルのトピックに移り、資金調達、資本政策(資本コスト、効率的市場仮説、最適資本構成とモジリアニ=ミラーの命題)、配当政策、企業価値(FCF、DCF法、株式評価モデル、EVA)が紹介される。
最後に、オプション理論、企業買収防衛策、投資ファンドといったトピックも学ぶことになります。
6. 人・組織
人と組織のマネジメントは、『戦略目標の達成という企業の目的と、生活維持や自己実現などの個人の目的を適合させ、競争優位の源泉を築くことを目指して』いると述べられる。
まずは『人の特徴や行動のメカニズム』を把握することが重要です。
こうした人と組織のマネジメントは、経営理念・ビジョン・経営戦略に適合させ、同時に外部環境に応じて適応させることも大事である。つまり内部と外部の両方の観点から考えるということですね。
次に組織行動学(OB)と人的資源管理(HRM)が紹介され、リーダーシップ=『変革を推し進める機能』とマネジメント『効率的に組織を運営する機能』の違いについて考える。MBAでもここは死ぬほどディスカッションします。
続いて、エンパワーメント=『自律性を促し、支援すること』、パワー=『人や組織の行動に影響を与える力』、モチベーションとインセンティブ、集団のメカニズム(視点、意思決定、公式と非公式)、チーム・マネジメント、コミュニケーション、コンフリクトと各テーマが紹介されていく。
興味深かったのが、チームとは『得られる成果が構成員個々の業績達成能力の総和よりも大きくなる集団』と定義されていることだ。そうでなければ、チームで仕事する意味はなくなってしまいますね。
ついで、組織文化と企業運営、組織設計、組織形態、人員配置、報奨、評価、能力開発といった、組織と人事システムについて書かれている。
最後にこれからのマネジメントとして、変革のマネジメント、組織学習、ワークライフバランス、メンタルヘルスといった視点が紹介される。
7. テクノロジー
テクノロジーは問題解決の手段(ツール)であり、持続的成長の源泉です。そして、インベンション(解決手段=技術)とイノベーション(革新による価値創出)の違いを押さえましょう。
次からは重要単語を本書から抜粋していきます。
イノベーションの類型:技術、製品、プロセス、ビジネス(モデル)
イノベーションの関門:開発から製品化(魔の川)、製品化から量産(死の谷)、量産から収益化(ダーウィンの海)
MFTモデル:Technologyを、Marketのニーズに対し、Functionを通じて結びつけるフレームワーク
製品アーキテクチャ:モジュラーとインテグラル
コトづくりの要件:ビジョン、システムマネジメント、ステークホルダーマネジメント
リスクマネジメント:Whatのリスク(←技術ポートフォリオマネジメント。強いと重要の2軸)とHowのリスク(←ステージゲート、オープン・イノベーション)
盛りだくさんすぎるので、残りは単語だけまとめておきます。
- テクノロジーの内製と外注
- 知財の構造(Intellectual Property < Intellectual Asset <Intangible Asset)
- 知財の活かし方(想像・育成、侵害検証、外部提携、収益化)
- オープン・イノベーションとクローズド・イノベーション
- キャズム
- 破壊的イノベーション
- 垂直と水平統合
- 機能別組織と事業別組織
- イノベーションのための組織運営(ワイガヤ、フォーラム)
- アライアンス
- 産学官連携
- エコシステム(地理的、関係性)
- テクノロジー・マネジメント(複合性、不確実性、多様性)
単語を列挙してわかりにくいですが、まとめ記事が後ほど登場するのでご安心ください。
8. ソフトスキル
ゲーム理論を最初に学びます。ゲーム理論とは、『複数の当事者(プレイヤー)が存在し、それぞれの行動が影響を及ぼしあう状況(ゲーム)において、各人の利益(効用)に基づいて相手の行動を予測し意思決定を行う場合の考え方』です。『経営や交渉の戦略を考えるときのフレームワーク』として役立ちます。
ゲーム理論について詳しくみていくと、ゲームの類型、同時進行ゲーム(絶対優位と絶対劣位、囚人のジレンマ、男女の争い、混合戦略)、ミニマックス定理、交互進行ゲーム、情報非対称ゲーム、ゲームの転換といった各理論があります。
次は、それをどうビジネスに活かすかという視点から、交渉の構造と類型、交渉構造分析、複数争点交渉、交渉と説得が紹介される。
ついで、心理バイアス(非両立バイアス、立場固定、勝者の呪縛、枠付け、アンカリング、枠付けの転換)と交渉戦術(脅し、瀬戸際戦術、良い警官/悪い警官)、交渉スタイル(何を重視するか)も紹介される。
最後に、よい交渉とは、ハードネゴではなく、Win-winの関係をスピード感を持って実現することだという点をメモしておきたい。
9. アントレプレナーシップ
『事業創造において不可欠となるのが、それを率いる者のアントレプレナーシップ』であり、本書では(起業家も含む)企業家精神と訳されている。
ニーズ発想やシーズ発想からビジネスアイディアを「たくさん(量が質に転嫁)」考え、ビジネスモデルという仕組みを考案して、ビジネスプランに落とし込んでいく。
以下は抜粋になります。
アイディアの発想法:SCAMPER・ロジックツリー・マンダラート(3×3)
ビジネスモデルの定義:『「だれに」「何を」「どのように提供し」「利益を生み出すのか」』のモデル化
ビジネスモデルの違う切り口:キャッシュ化とコスト低減
ビジネスモデルの新潮流:フリーミアム、ロングテール、シェア
ビジネスモデルの有望さ:持続的な成長性が条件。具体的には市場の魅力度と競争優位の持続可能性。
次はベンチャー企業をみていきましょう。
革新型ビジネス:①新製品・新市場型、②新競争ルール・新ビジネスモデル型
ベンチャー戦略:ニッチビジネス、分散型ビジネス。スピードで差異化。リーンスタートアップとピボット。
ベンチャーの組織マネジメント:アントレリーダーシップ、マネジメントチーム、組織文化、マネジメント・システム(時期に合わせて)
他に、資金調達(創業期、成長期)、ファイナンス(株主構成)、エグジット、事業拡大(アンゾフのマトリックス、多角化、クスマノのフレームワーク)、組織開発、ソーシャル・アントレプレナー、と盛りだくさんである。
おわりに
今回は、独学MBAの地図となる本を紹介しました。
この本をざっと読んだ結果として、MBAカリキュラムの全体感がわかり、どんなトピックでも、概念と専門用語がわかるようになったことだろう。
独学MBAの後半で、各科目について詳しく説明しているので、本記事は辞書がわりに使ってもらえると幸いです。
次回は、MBAでも2年制であれば2年目、1年制であれば後半に習うような選択科目を見ていきましょう。
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