IEではコロナの影響もあり、8月にサマープログラムが開講されており、ポストコロナの世界をテーマに、イノベーション、リーダーシップ、DXといったテーマを短期集中で学んでいます。
今回の記事は、その中の「The Geopolitics of COVID19(コロナと地政学)」について紹介します。COVID19は「ブラックスワンだったのか?」という問いに対して、「明確なNO」という結論の授業でした。
80分3コマの連続授業で、一から概要を一気に把握できたので、この分野に馴染みがない方でも無理なく理解できる内容です(ご安心を!)。
*COVID-19は全て「コロナ」で表記を統一します。
コロナはブラックスワンだったのか?
ブラックスワンとは、このように説明ができます。
「ありえなくて起こりえない」と思われていたことが急に生じた場合、「予測できない」、「非常に強い衝撃を与える」という理論。とりわけ予測できない金融危機と自然災害をよく表している。
Wikipediaより
「予測できなかったのか」、「感染者や死者を減らせなかったのか」という2点が今回の授業の論点で、「予測できた」、「感染者や死者を減らせた」(=ブラックスワンではない)というのが今回の結論です。
ちなみに、コロナはグレー・リノ(灰色のサイ)と呼ばれます。これは、高い確率で大きな問題を引き起こすと考えられるにも関わらず、軽視されてしまいがちな事象のことを表します。
コロナの状況
こちらは状況を把握するために、ざっくりとだけデータを紹介します。
*最新のデータや情報などは、WHOのウェブサイトが一番信頼できると思うので、こちらを参照ください。
タイムライン
コロナは2019年末〜2月にかけて、中国で急拡大しました。中国のパンデミックが連日報道され、WHOも警告をしていましたが(3/11にパンデミック宣言)、その後、各国で順番に広がっていったのはご存知の通りです。
私は3月下旬に一時帰国するまでは、スペインでロックダウンを経験しましたので、その体験はこちらにまとめています。
各国の感染者数の動きは、こちらの動画を見るとわかりやすいです(倍速視聴がオススメ)。
なぜコロナが各国に拡大したのか?
コロナのリスクに対する認識が異なり(多くは楽観的すぎる)、世界的に対策が遅れたからです。
①統計の誤解
コロナは新しいウイルスであり、当初はデータで実態を正確に把握するのが困難でした。また、データの解釈の仕方にも違いがあったため、各国の判断に迷いや違いが生じました。
AINOW
②指数関数的な感染拡大
前回のアジャイルの記事で紹介したのは、「ソフトウェアにより、指数関数的な成長が可能になった」でした。今回のコロナも同様で、指数関数的に感染が拡大していきました。
指数関数的な拡大を止めるには、早期の対応が唯一の手段です。このため、対応が早かった国は良かったのですが、対応が少しでも遅れた国は大変でした。
③コストの過小評価
コロナのダメージは、人命だけでなく、経済、社会、公衆衛生にも及びます。こうしたダメージ(=コスト)を過小評価したことが、対応の遅れにつながりました。
ロックダウンなどの経済的機会損失がクローズアップされがちですが、コロナが拡大してしまう経済的ダメージの方がはるかに大きいとのことです。
「Pandemics Depress the Economy, Public Health Interventions Do Not」に尽きると思います。
④Island Mentalityと過去の経験
「Island Mentality」とは、島国のように隔離されたコミュニティのメンバーが、自分たちは他の世界とは異なり、より優れていると考えることです。中国で感染が拡大し、欧州ではイタリアが大変なことになっている時にも、多くの国は自分たちは大丈夫と思ってしまいました。
2002年ごろに流行したSARSの経験もあり、アジア諸国は早期に対応を始めました。欧州については、イタリアとスペインの状況を目の当たりにして、各国が本格的に対策に動き出しました。米国に至ってはどうだったでしょうか…。
⑤リーダーシップの欠如
問題には、Technical ProblemsとAdaptive Challengesの2種類があります。
Technical Problemsというのは答えがある問いで、問題が特定しやすく、技術的だったり、作業的な話が多いです。人々はこのTechnical Problemsに目が行きやすく、問題の本質を見失いがちです。
一方で、今回のコロナはAdaptive Challengesであり、特定が難しく、価値観や行動様式を変容しながらアクションを取る必要さえあります。また、変化する状況に対応するためには、実験を繰り返しながら前に進めていくため、一定のエラーは避けられません。
トレードオフを考慮しながら大胆に優先順位をつけ、リーダーは人々に問題に立ち向かわせなければなりません。しかし、人々は目に見える問題しか反応しないため、問題を可視化することが何よりも大切です。
今回のコロナの件は、人命と経済、移動の自由、プライバシーといった価値観に踏み込む問題であり、リーダー達は大変苦労しました(=対策の実行が遅れた)。
*ストラテジーの授業に通じる部分があるので、「ストラテジーゲーム」の学習用スライドを下記に紹介します。
結論:コロナはブラックスワンではない。
早期の警戒システムや各国の連携システムが、コロナ以前に弱体化していたというのが理由です。これは米国の内向きへの変化、米中の衝突が大きく影響しています。
WHOを中心として早期に警告を出し、各国が連携してきたのが過去の成功事例でしたが、今回はうまく機能しませんでした。
コロナのグローバルな影響
パンデミックは、グローバル化と世界の分断につながっていきます。
グローバル化への影響
コロナは、グローバルなサプライチェーンと金融市場に大きなダメージを与えました。今後はサプライチェーンの多様化と国内回帰のトレンドが進むでしょう。
一方でグローバル化の動きにブレーキがかかる可能性もあります。これはコロナ前から見られていましたが、ポピュリズムやスケープゴートを探すといった政治的な動きにもつながります。
こうした動きにもかかわらず、コロナはグローバルの連携が不可欠なので、難しい問題となっています。
世界の分断
コロナのようなウイルスは、弱い者、持たざる者にダメージを与えます。経済的に余裕がない国、医療インフラが整っていない国は、特にダメージを負っています。
経済的なダメージはむしろこれからやってくるので、特に観光やグローバルサプライチェーンでの輸出に依存している国への影響が懸念されます。
国単位での格差だけでなく、国家内での格差や分断も起こっています。米国では人種によって、人口あたりの感染者数が違っています。バルセロナでも、所得が低い地域の方が感染者数が多いというデータが出ています。このように、国や地域の中でも、対コロナという意味で格差が存在します。
さらには、世代間のGAPも存在します。亡くなった方は高齢者が多く、若者は発症しても軽症で回復することが多いです。よって、高齢者をどう守るか、同時に若者の雇用をどう守るかと言った、世代間の問題が顕在化していきます。
今後の世界の動きを理解するキーワード
地政学的な観点から、今後の世界を理解するための7つのキーワードを見ていきましょう。
- Domesticな分断(国内、社会の中での格差)
- 世界経済(世界的な景気後退、不況)
- 民主主義とガバナンス(ポピュリズム、反グローバル)
- ロシア(資源価格の下落)
- 米国と各国の関係(敵と味方がコロコロ変わる)
- 国際機関の役割の変化
- 米中の覇権争い
地政学の観点で重要なキーワードを紹介しましたが、これらは今後の世界の動きをウォッチする際のフレームワークになりますね。
Now What?
最後に、我々が今後やるべきことを短期的・中長期的目線から議論しました。
- テストを増やす
- 接触記録アプリ
- ソーシャルディスタンス
- マスク
- 教育
- ロックダウン
- 高齢者や医療従事者を守る
- ワクチン開発
- 医療機器や体制の拡充
- グローバルな連携
- リーダーシップ
- 第二波、新たなウイルスへの備え
こうした施策が政治的にうまく機能するには、「Technically Correct」,「Administratively Feasible」,「Politically Supportable」の3つを満たす必要があるという、フレームワークを授かりました。
今まで見てきたように、ポストコロナの世界は政治的なリーダーシップが発揮できるかどうかにかかっています。
おわりに
コロナを地政学の観点から議論するという、今までで一番面白いトピックでした。
「コロナはブラックスワンではなく、予測可能でダメージを減らせる可能性は十分あった」という明確なストーリーのもと、政治・経済・社会・公衆衛生の各分野を統合しながら、どのように世界を捉えていけばいいのかを学びました。
その武器として、今回紹介したキーワードやフレームワークが参考になれば幸いです。
参考:IEのサマープログラム全体の記事はこちら