今回は、IE Business SchoolのPeriod2で学ぶ、Operations Managementの授業を紹介します。この授業は、「プロセス」に焦点を当てた授業です。
ビジネスのプロセスをコントロールし向上させることは、全てのマネージャーにとって重要な仕事の一つですが、そのための基礎となるオペレーションズマネジメント(OM)の理論を学びます。
OM概要とカリキュラム
OMとは?
OMとは、プロセスを設計・運用し、その生産性を向上させていく取り組みのことです。当然プロセスは生産だけに限らず、あらゆる分野にプロセスがあります。
一般的に、インプット→プロセス→アウトプットの順番になりますね。
工場では、原材料→製造・加工→製品のイメージですね。
この科目を学ぶ意義やキャリアへどう活かすのかという点で、参考になる記事を紹介します。
日本にはないプロフェッショナル・スクール
とっつきにくい科目だと思いますので、オススメ参考書籍「ザ・ゴール」を紹介します。
ベストセラーをマンガ化しており、オペレーションズ・マネジメントの真髄を理解することができます。むしろ、これを読まないで授業を受けるのが勿体ないです。
カリキュラム
ピラミッド構造(△)になっており、上に行くほど抽象的でゴールに近くなり、下に行くほど具体的に足下でやるべきことになります。授業では、1〜5に焦点を当てて学びました。
1_ビジネスストラテジー(組織の目標は?)
2_オペレーション能力(組織のプロセスを、目標達成にどのように役立てるのか?)
3_プロセスデザイン(プロセスをどのようにオーガナイズすべきか?)
4_質的マネジメント(質と効率性をどう担保するか?)
5_量的マネジメント(どれくらいの能力、在庫が必要か?どう需要に対応するか?)
△△△△△△△△△△△△△△△△△△
6_プロセスマネジメントツール(毎日の活動をどう計画し行動に移すか?→ERPシステム)
7_産業エンジニアリング(どのように計画をプログラム化するか?→アルゴリズム&最適化)
授業の具体的な内容
先ほどのピラミッドに沿って説明していきます。授業では、5_量的マネジメントから始まり、1_ビジネスストラテジーまで、下から上へと順番に学んだので、同様に説明していきます。
5_量的マネジメント
プロセスの基礎は、量的なマネジメントです。大きく3つに分けられます。
- Capacity Management(能力)
- Inventory Management(在庫)
- Demand Management(需要)
順番に説明していきます。
Capacity Management
生産能力マネジメントは、プロセス分析の基本的な手法です。Throughput Time(TPT)、Order-to-Delivery Lead time(OTD LT)という2つの指標で、プロセスのスピードを計測します。
TPTとは、一定期間当たりの処理スピード(算出量)のことで、OTD LTは単純に納期のことです。
参考書籍の「ザ・ゴール」では、TPTを「販売を通じてお金を作りだす割合」(つまり、一定期間でどれだけ売上を上げたか)と定義していました。製品を作るのも、営業活動をするのも、全ての事業活動は、売上(スループット)を最大化、コストを最小化して、利益を上げるためですよね。
ASPROVA
生産能力を決めるのは、ボトルネックだと言う考え方がとても重要です。「ザ・ゴール」は、マンガでこの概念を理解できます。
実際は、ボトルネックとリソースの稼働率を念頭に置きながら、生産能力を上げるための投資を検討する必要があります。当然、複数のリソースを全体としてうまくバランスさせることも考えなければいけませんね。
Inventory Management
在庫については、キャッシュが倉庫に眠っているわけであり、少なければ少ないほどよいです。
在庫については、2つの指標が重要です。
Cycle Stock:在庫(材料)を補充する時のボリューム(発注回数→発注コストに影響)。
Safety Stock:在庫の余力。補充が到着した時の在庫量(在庫維持コストに影響)。
この2つの指標をもとに、発注コスト、在庫維持コストなどの、トータルコストを最小化するEOQ(経済的発注量)を計算します。
EOQを決めたら次は発注タイミングですね。発注をかける在庫量=ROP(Reodrder Point)を決めます。これは、在庫維持コスト、Safety Stock、在庫切れコストを考慮に入れて計算します。
このような流れで、最適な在庫マネジメントを実行していきます。
Demand Management
最初のステップは需要予測です。様々な手法があり、基本的には予測と現実の誤差が最小となる手法を選択します。移動平均 (moving average) 法と指数平滑法 (exponential smoothing) は広く利用されていますね。
需要は、トレンド、循環、季節要因などで変動します。こうした変動に対しては、Capacity、Inventory、Order-to-delivery lead timeの3つをうまくバランスさせることが重要です。
また、Demand Managementの実例として、スイミングウェアを製造販売しているメーカーのケースを扱いました。Revenue Management(オフシーズンの注文は割引する)、プロダクトの多様化(夏以外のスポーツも展開)、部材の共通化(複数の製品に使えるようにする)などのやり方を学びました。
4_質的マネジメント
次は質的なマネジメントです。品質マネジメントとフローマネジメントの、大きく2つに分けられます。
品質マネジメント
品質マネジメントとは、プロセスを制御することで、スペック(=予め決めたレベル)に収まる製品・サービスを安定して提供することです(やみくもに高品質を求めるのはNG)。
当然ですが、品質の向上にはコストがかかるため、どこに目標を設定するのかも定量的に判断する必要があります。
また、品質の計測結果そのものに、バラツキが発生することを認識する必要があります。Precision(精度)とAccuracy(正確度)という概念で考えることができます。
株式会社日立ハイテク
次に、品質管理の手法の一つである「シックスシグマ」を紹介します。これは、製品やサービスのクオリティを高く一定に保つことで、顧客満足度を高めるという、有名なフレームワークですね。
具体的にはこちらをどうぞ。DMAICというフレームワークが重要です。
ビジネス+IT
品質マネジメントの課題は、シックスシグマ特有のもの、より広範囲のもの、サービス業に特有のものなど複数あり、まずは課題を特定することが重要です。
その上で、品質マネジメントには、マネジメント層の強力なコミットメントが必要とされる、ということでこの回は締め括られました。
フローマネジメント
品質の次はフローです。3種類のフローマネジメントが紹介されます。
まずはトヨタで有名な「リーンマネジメント」を見ていきましょう。これは、プロセス管理を徹底することで、製造・サービス工程でムダを排除して最適な活動を行い、最小限の経営資源で、最大限の顧客価値を提供することを目的とするマネジメント手法です。
リードタイムを短くする見込生産型、在庫ロスを少なくする受注生産型の違いを理解しましょう。
見込生産 | 受注生産 |
Push型 | Pull型 |
Make to Stock | Make to Order |
リーンの詳細はこちらをどうぞ。
プロシェアリング
フローマネジメントの2つ目は、「キュー(行列)マネジメント」です。まずは、「行列は避けられないもの」という認識を持つことが必要です。そして、キューの技術的側面に加えて、待たされる側の感情的な側面をケアすることがポイントになってきます。
技術的な側面については、需要の変動、リソース(設備や人)を並列で使えるか、リソースの制約(特定のジョブしかできない等)を考慮しながら、リソースの稼働率、すなわちボトルネックがここでも重要になってきます。
授業では病院のケースを扱い、限られたリソースで、いかに短期間で多くの患者さんを入院・手術・退院まで持っていくかを、行列の観点から議論しました。
感情的な側面は、テーマパークがまさにそうですが、行列のデザインによってネガティブな感情を減らすことができます。例えば、4U(Unoccupied、Uncertain、Unexpected、Unfair)を避けること、行列の最初と最後が記憶に残りやすい、などを学びました。
フローマネジメントの最後は、ナレッジマネジメントです。まずは、タイムプレッシャーが悪循環を生み出すことを認識します(急いでショートカット→ミス→遅れ→更なるタイムプレッシャー)。
そして、行列が減らない原因として、高稼働率が行列を生み→パーキンソンの法則*→また行列…というもう一つの悪循環があります。
パーキンソンの法則は、「役人の数は、仕事の量とは無関係に増え続ける」というものです。具体的には、第一法則(仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する)と第二法則(支出の額は、収入の額に達するまで膨張する)からなり、仕事の量が増大=稼働率が上がっていくことが示されています。
フローマネジメントを実体験するために、半導体工場のオペレーションを体感できるシミュレーションゲームをやりました。
3_プロセスデザイン
量的なプロセスマネジメント、質的なプロセスマネジメントを見てきました。次に、プロセスのどの型を選ぶかという話です。
大きく3種類の型があり、各プロセスによって、Operational capabilityとCompetitive prioritiesが変わってきます。
- Line Flow
- Job Shop
- Project
Line Flow(ライン生産方式)
ライン生産方式は、単一の製品を大量に製造するための方法でです。製品の組み立て工程、作業員の配置を一連化させ、ベルトコンベアなどにより流れてくる機械に部品の取り付けや小加工を行う作業である。
ライン方式では、リーンマネジメントの4つの原則を適用する必要があります。
- 全てのジョブが明確に定められていること(内容、順番、タイミング、結果)
- 全ての工程が連結していること(Push型、障害がないこと)
- 全てのプロセスが一直線であること
- 全ての改善は科学的・システマティックであること
Job Shop
ジョブショップ型生産は、機能別配置とも呼ばれ、同種の機能や性能をもつ機械設備をグルーピングして編成した工程(ショップ)で、フレキシブルに対応ができます。同種の機械設備をまとめるため、機能や単一作業の管理はしやすくなるが、製品や部品を製造する経路が多様化するため、各々の仕事(ジョブ)単位で稼働率やリードタイムが変わり、全体の管理が難しいのが課題である。
ジョブショップでマネージャーが考慮すべきポイントは、リソースの多能工化、納期の安定、稼働率、余力在庫、スケジュールなど、多岐に渡ります。
Project
いわゆるプロジェクトマネジメントですが、システム全体を変えるのか、それとも一部分だけを変えることを目指すかで、チーム構造も変わってきます(全体を変えるときは創造的チーム 、一部を変えるには効率的チーム)。
3つの落とし穴があり、全体を変革しようとしているのに効率性を追い求めてしまう、現状のやり方に引っ張られて変革に失敗する、うまくいかなくても突き進んでしまう(サンクコスト)、があります。
特にベストプラクティスという考え方は、メリットにもデメリットにもなり得ることを意識する必要があります。
2_オペレーション能力
プロセスの型を選んだら、次はオペレーション能力(Operational Capabilities)について考えます。これは、3つの指標に集約され、どの指標に焦点を当てるのかを決めることが大事です(何をあきらめるのか)。
- Efficiency
- Effectiveness
- Flexibility
Efficiency
計算式 = OUTPUT / INPUT
ビジネスゴール:低価格、サービスのスピード
代表企業:ウォルマート、ライアンエアー(格安航空)
Effectiveness
計算式 = ACTUAL OUTPUT / EXPECTED OUTPUT
ビジネスゴール:一定品質、納期順守
代表企業:UPS(物流)、フェラーリ
Flexibility
計算式 = △OUTPUT / △INPUT (アウトプットの変化/インプットの変化)
ビジネスゴール:製品の種類の豊富さ、カスタマイズ、変動する需要対応
代表企業:DEL、ZARA
オペレーション戦略を考える際に、大事なこと
一つ目は、戦略が一貫性を持つこと。今まで学んできた、プロセスの基礎(能力・在庫・需要)、プロセスマネジメント(品質、フロー)、プロセスデザイン(ライン、ジョブショップ、プロジェクト)の一貫性です。
二つ目は、Efficiency、Effective、Flexibilityで計測される、オペレーション能力が、マーケットの要求、企業のビジネスのゴール、オペレーションの特徴にマッチしているのかを見極めることです。
1_ビジネスストラテジー
ようやく戦略にたどり着きました。ビジネス戦略を元に、Efficiency、Effectiveness、Flexibilityのどの指標に焦点を当てるのかを決めることから、オペレーションは始まります。
戦略に関するポイントを紹介します。
拡大による弊害
組織の拡大や能力拡大に伴う弊害が2つあります。しっかり対応できるように、見ていきましょう。
一つ目は、プロダクトライフサイクル。プロダクトの段階に応じて、顧客の要求や競争の種類が変わってきます。各フェーズにおいて、3種類のプロセス(Line Flow、Job Shop、Project)を変えていく必要があります。
二つ目は、製品の種類の多様化です。製品の種類やボリュームが拡大しても、効率性を落とさないように、こちらも3種類のプロセスを変えていく必要があります。
プロセス変更の難しさ
プロセス変更のうち、Line FlowとJob Shopの間の変更が難しいです。プロセスデザインと運用方法が大きく変わり、組織内の一貫性も途切れてしまうからです。変更の際には、Line Flowの効率性とJob ShopのFlexibilityのバランスを考慮に入れ、リソースとナレッジを組織内で共有していくことが大切になります。
同様に、複数のプロセスを共存させていくことも、難しいです。これはPlants within Plants(PWP)と言われ、組織内で別々に運用していくことが現実的です。
おわりに
今回は、プロセスに焦点を当てた「オペレーションズマネジメント」の授業内容を紹介しました。複雑な内容なので、一度で理解することは難しいかもしれません。
まずは、参考書をさくっと読んで、ピラミッド構造を理解すれば、基本はOKだと思います。
このたび、ビール事業をテーマに、オペレーションズマネジメントを体感できるゲームを開発しました。初心者の方に特におすすめのゲームです。
オペレーションゲームの内容をまとめた記事がこちら