IEに入学し、6ヶ月間のCore Period(必修)、5週間のLab Periodを終えると、残りは3ヶ月のElective Periodに突入します。100以上の選択肢から、自分の学びたい科目を取ることができます。
そこで今回は、「Tech Product Management」の授業内容を詳しく紹介します。
実際に授業を受けた私が詳しく説明していきます。この記事ではTechプロダクトマネジャーのことを、プロマネと略しますね(この記事では、プロジェクトマネジャーではない)。
カリキュラム概要
この授業は、シリアルアントレプレナーかつ投資家である教授が、プロマネの心構えから、製品開発、チームマネジメントに至るまでを全20回に渡って叩き込み、プロマネとして必要な知識を身につけ、プロマネとして採用される手助けができるように設計されています。
1. なぜプロマネなのか?
プロマネの平均年収は10万ドルを超えており、注目されている職業の一つです。そして企業側も採用数を大幅に増やしているという事実があります。
プロダクトマネジメント
では、「プロダクト開発」での一番のリスクはなんでしょうか。「誰も使わない(ニーズがない)製品を作ってしまう」ことですね。これはスタートアップの失敗の第一位である「マーケットがなかった」というのと全く同じですね。
プロダクトマネジメントとは、Business/UX/TECHの3つを実現させることです。言い換えると、What we should/What they want/What we canの3つをすべて満たすことですね。
プロダクトマネジャー
プロマネに求められる資質としては、戦略/ロードマップ/プロダクトの機能の3つをマネージすることです。プロマネには3種類いて、「Technologist」「Generalist」「Business-oriented」です。
ここで注意したいのが、「プロダクトマネジャー」と「プロジェクトマネジャー」の違いです。混同する場合が多いので、自分がどちらを目指すのかは間違えない方が良いです(私は混同していました)。
プロダクトマネージャーは、「何を作るか」「なぜ作るのか」に責任を持ち、プロジェクトマネージャーは、「いつまでに作るか」「どうやって作るか」に責任を持つ。
小さなごちそう
組織やコミュニケーション
次にプロダクトではなく、組織やコミュニケーションの側面からプロダクトマネジメントを見ていきましょう。プロマネは「上層部」「開発チーム」「マーケティング&セールス」の間ではさまれることが多いです。さらには組織で力を持っていない場合は、コミュニケーション面でとても苦労します。
また組織の形態(プロダクト優先、マーケット優先、組織の運営優先)によってプロマネの役割が変わります。また、プロマネはプロダクトに全責任を持つミニCEOと捉えることができます。
2. 何を作るのか?
それでは、プロマネとして何を作るのかに焦点を当ててみましょう。
Whyからはじめよ
どの授業でも必ず登場する、サイモン・シネックさんの「Whyからはじめよ(Youtube動画)」。Why→How→Whatの順番で説得することが大事で、優れたリーダーはWhyで人々をモチベートするという内容ですね。企業でいうとミッションがとても大切です。
ペルソナ
次に考えるのが、誰をターゲットにするかです。これはペルソナと言って、とことん具体的にイメージすることが大切です。実際にその人物が実在しているかのように、年齢、性別、居住地、職業、役職、年収、趣味、特技、価値観、家族構成、生い立ち、休日の過ごし方、ライフスタイル、悩みと言った、具体的な顧客像を設定していきます。
ペルソナを設定したら、次はキャズム理論です。対象のペルソナが最初にプロダクトを試してくれる層(イノベーターやアーリーアダプター)なのか、ペルソナが適切に設定されているのかを確認しながら進めていくことが必要です。
ProblemとSolution
ペルソナ(誰?)とセットですが、次はProblemとSolutionです。まずはProblemに集中しましょう。
この時に「ある顧客(ペルソナ)は、特定のシチュエーションで持つ課題(ジョブ)を解決するためにプロダクトを雇用する」というジョブ理論が登場します。ジョブ=めちゃめちゃ具体的なProblemと考え、次のテンプレートが役立ちます。
「<特定のシチュエーション>のとき、<特定のモチベーションや必要性>をしたい。その結果、<特定の成果>を達成することができる」
また、「Pricing Strategy」の授業でも出てきましたが「顧客のニーズ」と「顧客の満足度」のマトリックスで、ニーズが強い(重要)けれども現状満たされていない部分を狙う(図の左上)ことが大切ですね。
バリュープロポジション
顧客に価値を感じてもらうためには、「何の問題を解決するのか?」「なぜ競合ではなくあなたのプロダクトなのか?」という2つの問いに答えることが必要です。
そして顧客のニーズを「Must-have (Basic expectations)」「Performance Benefit」「Delighter」に分けて考えましょう。Must-haveは最低条件なので競合とは差がつきにくく、突き抜けた一つのPerformance Benefitとユニークな一つのDelighterの組み合わせが効果的です。
3. プロダクトロードマップ
ここでは、プロダクト開発の流れについてみていきましょう。全体の流れはこうです。
- インタビュー/リサーチ
- 社内向けプレスリリース/プロダクトレビュー
- プロダクトロードマップ/MVP/要件定義
2. 何を作るのか?で紹介したように、インタビューやリサーチを繰り返しながら問題を深堀していきます。仮説が固まったら社内向けプレスリリースやプロダクトレビューで、コンセプトを関係者で共有します。
社内向けプレスリリースの項目例は、下記の通りです。
- ヘッドライン(プロダクトを一文で表す)
- サマリー
- ProblemとSolution
- プロマネの言葉
- カスタマーの言葉
- 結論と最初のアクション
プロダクトレビューの中身は下記の通りです。
カスタマーはプロダクトについて何と言うか?(なぜ我々のプロダクトか?)
プロダクトの何が価値をもたらすのか?(トレードオフや無視すべき部分)
なぜカスタマーはプロダクトを買うのか?(プロダクトの独自性、Ethos/Pathos/Logos、MVPより広義のイメージ)
こうしてコンセプトが共有できたら、次はプロダクトロードマップに進みましょう。
プロダクトロードマップ
プロダクトロードマップの定義は以下になります。
どのようなものを作るかという未来のビジョンを組織全体で共有し、自分たちがどこに向かおうとしているのか、今現在自分たちがどこにいるかを共有するためのツールが「プロダクトロードマップ」です。この記事では、製品開発に必要なビジョンと実際の工程を視覚化し、共有するためのプロダクトロードマップをテンプレートと併せてご紹介します。
HubSpot:製品開発に欠かせない、プロダクトロードマップの5つの必須要素
プロダクトロードマップの構成要素としては次の通りです。
- ビジョン
- ビジネスの目的(達成したい成果=Outcome)
- テーマ(解決したい課題や問題、OutputではなくOutcomeに着目、解決策=機能)
- タイムライン(時間軸)
- 免責事項(変更可能性を示す)
プロダクト開発のメソッドは、ウォーターフォール型開発とアジャイル型開発が有名な話ですね。詳しくはこちらの記事でまとめています。
ストーリー vs 機能
まずは機能ではなく、ストーリーに焦点を当てるべきです。
「<特定のユーザー>として、<特定の成果>を達成したい。それは、<特定の理由>だからだ。」という文章が成立するように考えましょう。
訳しにくいので、原文も紹介します。As a <type of user>, I want to <accomplish some goal> so that <particular reason>.
ステークホルダーコミュニケーション
プロダクトロードマップを元にチームで進めていく際の注意点を学びました。
- 部署や立場によっては、プロダクトロードマップのみるポイントが違う
- チームで議論して、一度決めたら同じ方向性を向いて進む
- 定期的にMTGをする(プロマネは多くのMTGをこなさなければいけない)
4. プロダクトバックログ
問題と解決策が固まり、具体的にプロダクトがイメージできたとき、プロダクトの機能を取捨選択する時に大事なことは何でしょうか。
- ストーリーを重視
- ユーザーの重要性と満足度のマトリックスから優先順位をつける
- Output(機能)とOutcome(成果、達成したいこと)を混同しない
- バリューとコストのバランス
- 機能をいくつかの基準で評価して点数化(スコアカード)
プロダクトバックログ
さて、プロダクトロードマップが出来上がり、作るべき機能が決まりました。次はプロダクトバックログです。
これは、ロードマップと要件に基づいて開発チームが行う作業を優先順位付けしたリストです。プロダクトバックログには、一番上に最重要項目が表示され、チームは今何をすべきかがわかります。
品質機能展開
品質機能展開(Quality Functional Deployment)について学びました。これは、顧客の声を抽出して整理し、競合と比較(ベンチマーク)することで、競合よりも魅力のある製品づくりのために、技術課題の抽出と各部門の課題への展開を行う方法になります。
5. Growth
プロダクトをローンチし、次はユーザー数の拡大について見ていきましょう。プロダクト開発は、初期ステージ(Validationとスピード重視)、中期ステージ(PMF後)、後期ステージ(スケール)と進めていきますが、ユーザー数の拡大(トラクション)も一貫して取り組む必要がありますね。
Product Metrics
プロダクトの成長を定量的に図る「Metrics」について考えましょう。Metricsとは、様々な活動を定量化し、その定量化したデータを管理に使えるように加工した指標のことです。
Tech Productは下記の順番で進んでいきます。
RefferalとRevenueが入れ替わるパターンもあります。
そして、Productの成長は①インプット→②アクション/ステップ→③アウトプット(①に戻る)というループで進んでいきます。一番最初のインプット、つまり何を計測するのか、どのテータを用いるのかがとても重要になります。
成長のループ
3種類のループで成長させていくことができます。とにかく、インプット(広告や施策など)に対してアプトプット(認知数、ユーザー数など)がどんどん大きくなっていく(拡大のスパイラルに入る)ように、仕掛けを作ることが大切です。
- Viral Loops
- Content Loops
- Paid Loops
ループによって拡大させるための第一歩はとにかくFocusです。
- Persona(対象を絞る)
- Geography(地域を絞る)
- Category(分野を絞る)
一度火をつけたループを、どうやって加速させていけるのでしょうか。
- 悪いFrictionを減らす(物理的には、登録やインストールの負担を減らし製品の使い勝手をよくする。精神的には、顧客のめんどくささを減らす)
- 良いFrictionを増やす(ネットワーク効果など)
- スループットを増やす
- Value CaptureとValue Creationの方向性を合わせる
Productのローンチ直後は、あらゆる手を使って拡大させていく必要があります。
6. Retention
拡大と同時に必要なのが、いかに顧客をつなぎ止めるか(Retention)が重要になってきます。何より顧客の満足度が大切です。
顧客の満足度
次に顧客の満足度をどのようにして計測するのか、どうやって継続して使ってもらえるかを考えていきます。
「アクティブユーザー」に注目します。これはプロダクトを実際に定期的に使ってくれるユーザーのことです。
デジタルプロダクトの場合は、登録やダウンロードのハードルは低く、また登録はしているけど使っていないというパターンが多いので、獲得ユーザーよりもアクティブユーザーの方が重要な場合が多いです。
Retentionを高めるステップ
- ペルソナと使用シーンの明確化(ターゲットユーザーの代表的な使い方を見抜く)
- Retentionの計測(Natural Usage Behaviorに合ったをメトリックスを作ります。使用シーンやタイミング、使用頻度など)
- 可視化と分析
- Retention向上のための戦略
Retentionについてもっと知りたい方は、シリコンバレーの有名VCのSequoiaの記事をお読みください。
Sequoia
7. UX
最後にデザインについても触れておきましょう。UIとUXの違いをまずは押さえましょう。
UIとはユーザーインターフェースの略で、PCやスマホで画面上で見ている全ての情報(デザインなど)になります。
UXとはユーザーエクスペリエンスの略で、人がサービスに触れて感じる体験全てを表します。最高の体験(Significant)を目指したいですね。
8. Tech Product Managerとして採用されるために
最後の授業では、プロマネとして採用されるためのポイント、働き方についてレクチャーがありました(詳細は後日追記)。
おわりに
今回は、「Tech Product Management」の授業内容を紹介しました。プロダクトマネジャーの心構えに始まり、プロダクト開発、組織の中でのコミュニケーションに至るまで、プロダクトマネジャーとしての必要な知識を一気に学ぶことができました。
この授業で学んだことの大半が、この本に書かれているので読んでみてはいかがでしょうか。とてもオススメです。