今回はIEで学ぶ、Business, Government & Sustainabilityの授業を紹介します。
授業の目的
企業は、Market environment(市場)とNon-market environment(非市場)という、2つの環境の中で事業をしています。
Non-marketは非公式で、独特の慣習があり、利益で考えるMarketのやり方が通じないことが多いです。
この授業では、政治・規制・社会・文化・環境といったNon-marketの各要素を分析することで、MarketとNon-marketを統合した戦略を立案し、意思決定ができることを目指していきます。
カリキュラムと学んだ内容
2つの市場の違いを概観した後、前半で政治、後半で社会について考察します。
①MarketとNon-marketの違い
順を追って説明します。
Market Environmentとは?
ポーターのファイブフォースがそうです。企業、競合、サプライヤー、バイヤーなどが、Market Environmentにあたります。
BRANDINGLAB
Non-Market Environmentとは?
Market Environmentの外側にいるステークホルダーがそれにあたります。Governments、NGOs、Media、Regulators、Activists、Citizensなどです。
Market Environmentを理解するには、ファイブフォースを使いますが、Non-Market Environmentでは「(IA)^3」フレームワークを使います。スウェーデンのトラック製造ボルボ社の、同業スカニア社買収の事例を紹介します。
②政治
政治の構造を理解する理論として、「Selectorate Theory:権力支持基盤理論」を学びます。
独裁者の支持基盤は、1.名目的な有権者集団、2.実質的な有権者集団、3.盟友集団に支えられており、3者のパワーバランスから独裁者の権力を考察します。
わかりやすいのは大企業の例で、大多数の株主(名目)と、機関投資家や創業家など影響力のある大株主(実質)、役員や重役を選ぶ人々(盟友)によって成り立っています。
BOOK-SMART
③政治リスクとロビー活動
次はロビー活動です。オーストラリア政府が、資源税の税制改革を図ったが、鉱山会社や業界団体、野党の猛烈な反対に合い、首相交代にまで至ったケースを学びました。
会社側からすれば、早め早めの積極的対応が重要です。投資の前に優遇策を国や自治体から引き出すこと(誘致策)、規制が制定される前になるべく早く働きかけていくこと(制定されるとどうしようもない)がポイントです。
伸銅海外情報(2010年9月22日号)
④国際貿易(WTOと貿易政策)
次は国際貿易です。中南米産バナナ(米国資本の会社が牛耳っている)に対する、EUの関税引上げをテーマに扱い、そこからWTOの役割についてディスカッションしました。
自由貿易と保護貿易の間で揺れていくのが通常ですね。
欧州連合(EU)は15日、中南 米産バナナの輸入関税を段階的に引き下げることで合意したと発表し た。世界貿易機関(WTO)での協議を通じ、15年間に及ぶ貿易紛争 に終止符を打った。EUの声明によれば、現行のトン当たり176ユーロ(約2万2900 円)の輸入関税を早ければ2017年に114ユーロに引き下げる。EU はまた、関連のバナナ係争で米国と和解することで合意したことも明 らかにした。
Bloomberg: https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2009-12-16/KUQG2W07SXKX01
⑤アクディビスト、ボイコット、私的政治
1990年代後半の、ナイキ不買運動のケースを取り上げます。
1997年、ナイキが委託するインドネシアやベトナムといった東南アジアの工場で、低賃金労働、劣悪な環境での長時間労働、児童労働、強制労働が発覚。この事態に米国のNGOなどがナイキの社会的責任について批判した。世界的な製品の不買運動が起こり、経済的に大きな打撃を受けた。
東洋経済 ONLINE: https://toyokeizai.net/articles/-/35708?page=3
ナイキの委託先の工場で起こっているので、その工場の責任範囲であり、ナイキ自体に法的責任はありません。創業者のフィル・ナイトもそのように回答したのですが、のちに大バッシングにあい、ボイコット運動に発展しました。
当時のクリントン大統領がタスクフォースを作り、のちのFLA(フェア・レイバー・アソシエーション)にもつながりました。
なぜここまで大騒動になったかというと、Nikeの強みや資産が、ブランド、社会的評価、名声だったので、ネガティブなインパクトが大きかったためです。
ここからわかることは、企業の責任はMarketだけでなく、Non-Marketにも広がっているということです。Legal、Managerial、Moralという3つの責任ですね。
⑥CSRからCSVへ
飲料メーカーのケースを取りあげ、CSR(Corporate Social Responsibility)からCSV(Creating Shared Value)への転換を考えます。
こうした企業はCSR活動に積極的で、プラスチックボトルの削減、健康増進プログラムなど多くの活動をする一方で、添加物(シュガーや遺伝子組み換え食品)が入った製品を多く販売しています。
このように、企業の経済的価値と社会的価値は対立する、あるいは両立が難しいというのがCSRの考え方です。
ここから発展させたのがCSVで、経済的価値と社会的価値を両立させ、価値を生み出していくという考え方になります。社会的責任のレベルは3段階(コンプライアンス→CSR→CSV)、企業も戦略が必要になります。
すぐ活かせる環境情報
⑦Marketの限界
この回では、MBA定番のシミュレーションゲームをやりました。このような感じで、授業でゲームをすることが多いです。
ルールを説明します。地方の湖の近くに、工場が8つ操業しています。
各工場は水を使って製品を作るのですが、当然排水の処理が必要になります。各工場は毎回、排水処理をする or しないの2択を迫られます。
全工場が協力して水をきれいにすれば、Win-Winで全工場に利益が出ますが、一つでも裏切ると、裏切った工場だけ利益をもらえます。囚人のジレンマですね。
シミュレーション結果は、少数の工場が最後まで裏切り続け、最終的には皆が利益を出せずにゲームオーバーでした。途中で話し合いの時間があったのですが、うまくいきませんでした。
次の授業で反省会をしたのですが、合意はとても難しいことを再認識しました。現実でも、地球温暖化問題で同じようなことが起きていますね。
⑧戦略としてのサステナビリティ
最期の授業は、環境経営が利益につながるのか?ということについて考えました。アウトドアブランドの「パタゴニア」のケースです。
売上の1%を寄付するなど、世界で最もサステナビリティを推進している企業だと言われています。こうした徹底した取り組みは、パタゴニアの差別化、競争優位性にもつながっています。
Harvard Business Review
私はこの会社の取り組みをポジティブに捉えているのですが、クラスメートの色々な意見が出ました。結局アパレルだから環境に負荷をかけているのは間違いない、環境を使って利益を上げようとしているなどの意見も出ました。
おわりに
Marketというビジネスの世界の外側にいる、Non-Market Environment (NME)について見てきました。
現代のリーダーは、政治・規制・社会・文化・環境といったNon-marketの各要素を理解し、MarketとNon-marketを統合した戦略を立案し、意思決定ができなければいけません。普段は馴染みのない分野でしたが、短期間で体系的に学べてよかったです。
さて、次の記事はトピックが変わって「マーケティング」です。マーケティングの基礎から価格戦略、デジタルマーケティングと理解を深めていきましょう。