IEに入学し、6ヶ月間のCore Period(必修)、5週間のLab Periodを終えると、残りは3ヶ月のElective Periodに突入します。100以上の選択肢から、自分の学びたい科目を取ることができます。
そこで今回は、「PRICING STRATEGY」の授業内容を詳しく紹介します。
こうした内容を、実際に授業を受けた私が詳しく説明していきます。
カリキュラム概要
「Pricing」は「Hidden Profit(隠れた利益)」と言われるほど、損益に対するインパクトがとても大きいです。しかしながら、その重要性の割にはあまり注目されていないのが現状です。
今回は、そんなPricing Strategeyについてゼロから学び、損益改善のヒントを考えていきましょう!
*この本は授業内容をほぼカバーしており、初心者向けにまとまっていてオススメです。
1. Pricingの基礎
Pricingは大きく3つに分けられます。
- Pricing strategy(事業ゴールを達成するため)
- Pricing setting(利益の最大化を目指す)
- Pricing execution(方針・プロセス・テクノロジーが鍵)
PROFITS = Price × Volume – Costs (Fixed/Variable) で表されますが、実際のビジネスではどこまでPriceが最適化されているでしょうか。
価格変動のインパクトの大きさを解説してくれている記事を紹介します(数量のインパクトは実は小さい)。
i & Associates
それでは、①Strategy→②Setting→③Executionを順番に見ていきましょう。
①Pricing Strategy
事業の種類や競争の激しさとも関わってくるのですが、ビジネス上の目的をどこに置くのかでPricing Strategyが変わってきます。三角形の全てを実現することは(ほぼ)不可能で、基本的にはVolume、Revenue、Profitのどれかを優先することになります。
そしてPriceとQuality(あるいはPerceived value)が釣り合っているかどうかを考える必要がありますね。
それでは、実際に価格戦略を策定する時のプロセスを見ていきましょう。
Segmentation & Target Markets
マーケティングでも学んだSTPを使って、市場や顧客を絞り込んでいきます。この時に重要なのがWillingness to Pay(WTP)です。WTPとは、「これくらいまでなら払ってもいいかな」と思える金額のことで、実際に購入してもらうためには価格をWTPより下げる必要があります。
Value Attributes
顧客がどの機能をどれだけ重要視していて、それぞれの機能のパフォーマンスはどうかを分析します。
例えば、顧客が求めるベネフィットで、一番重要視するものから品質、安全、能力だとしましょう。一方で、実際に提供できているのが安全と能力で、品質はイマイチだとすると、顧客のニーズと提供している価値の間でギャップがあります。
このように顧客のニーズの把握から始め、製品開発に活かしていく(価値を上げる)ことは基本ですね。
Product Positioning
これは「競合製品と比べて、自社製品のポジショニングをどう設定するか(=価格をどう設定するか)」を示しています。主に2つの手法があります。
ペネトレーション・プライシング:「市場浸透価格戦略」とも呼ばれ、市場シェアを一気に拡大することを目的にしています。大量生産によるコスト削減や、ほかの分野での技術を転用することにより、圧倒的な価格で商品を開発できる場合に有効です。
スキミング・プライシングは「上澄み価格戦略」とも呼ばれ、新製品の発売当初に高価格を設定し、徐々に価格を下げていきます。「高くても新しい製品がほしい」と思う顧客がいる場合に有効です。
Reaction Plan
価格設定は一度決めたらおわり。ではなく、競合との終わらない戦いです。こちらも経済学やStragetyの授業で学んだ「ゲーム理論」を使いながら、市場や競合の動きを見ながら、状況の変化にどう対応するのか(Reaction Plan)を事前に決めていく必要がありますね。
②Pricing Setting
価格設定の考え方
大きく4つがあるので押さえておきましょう。
- コストベース(どうコストをカバーするか)
- 競争ベース(競合製品の価格は)
- 市場ベース(市場が耐えられる価格は)
- 価値ベース(顧客はどれくらいの価値を感じているか)
基本的には、「価格」=「競合の価格」+「付加価値」ー「ネガティブ要素」で決めていきます。
価格の弾力性
もう一つ参考になる考え方が、経済学の授業でも学んだ「価格の弾力性」です。価格の弾力性とは、「価格の変化に大して数量がどれくらい変化するか」を表した指標です。
価格を上げても数量がそれほど変化しない(弾力性が低い)のであれば、値上げの可能性は高いです。逆に価格を上げると数量が大きく落ち込む(弾力性が高い)のであれば、値上げはためらいますよね。
このように、売上=価格×数量なので、2つセットで考える必要があります。
価格設定のステップ
価格の弾力性を念頭に置きながら、「顧客インタビュー」と「実験と分析」を通じて価格を設定していきます。
顧客インタビューは、プライシング調査とも言われますが、参考になる記事を紹介します。
quest
PSM分析:製品やサービスの適正価格を導くための分析手法です。Price Sensitivity Meter(価格感度メーター)の略。
マクロミル
③Pricing execution
価格設定が終わっても、価格をめぐる戦いは続きます。このような状況は見覚えがないでしょうか。
10%値下げして欲しい!
社内で検討してみます。部長、顧客を獲得するために値下げしましょう!
いや、値下げはできないな。営業トークでなんとかしてくれ。
こうした価格戦略を効果的に実行するために、守るべき2つの原則があります。
- 組織的な整合性とガバナンス
- テクノロジーとデータ分析
この原則をもとに、価格戦略に基づく決定、営業のモチベーションアップ、テクノロジーやツールを使った科学的な実行を意識しながらPricing executionを進めていく必要があります。
2. Price Wars
顧客にとっては嬉しいが、企業側にとってはネガティブ要素が多い「Price Wars」について学びました。できる限り避けたいものです。Prive warsの目的は、シェア獲得/競合の弱体化/新規市場への参入などがあります。在庫整理や工場稼働率アップなど、あまり好ましくないが必要な場合もあります。
価格競争で気をつけたい、負のサイクルを説明します。
- A社がシェア獲得のために価格を下げる
- A社がシェアを獲得する
- B社がシェアを奪回するために価格を下げる
- シェアが値下げ前の状態に戻る
プレイヤーの誰もが損をする最悪のパターンですね。
3. ケースとシミュレーション
今まで学んだことを活かして、グループで「価格シミュレーションゲーム」に取り組みました。航空会社のPricing担当者として、下記の価格を設定していき、競合と戦いながら利益を最大化することがゴールです。MBAの特徴である「アクティブラーニング」ですね。
- マドリードとロンドン/イビサ/ブリュッセル間の3つのルート
- エコノミーとビジネスクラス
- 平日と休日
季節による需要変動や競合の価格、空席率などのデータを見ながら、価格を決めていきます。価格競争に陥らないように気をつけながら進めました。最後にグループレポートを提出しました。
4. Discount戦略
定価に対して割引を適用する方法について学びました。B2BとB2Cの2種類があります。
値下げ戦略(B2B)
値下げは顧客の行動を変えることができる強力な手段です。例えば、ボリュームディスカウント、リベート、ボーナスなどがありますね。
一方で損益にダイレクトに直結するので、以下の3つの要素に気をつけながら進めていく必要があります。
プロモーション戦略(B2C)
プロモーション(販売促進)のうち、一番よく使われるのが割引です。割引策を使う場合は、「価格の弾力性」を使ってきちんと計算する必要があります。とはいえ、割引以外にも目を向け、適切な施策を選ぶことが大切ですね。
- Discount
- Value Added(ギフトやおまけ)
- Volume Discount(3個買ったら1個無料)
- Bundling(AとBを買ったら◯◯セットで割引)
- Multibuy(2個買ったら1個あたり◯円)
- Packaging Offers(◯%増量)
プロモーションによる売上拡大分、販促コスト、マージンを計算して、注意深く進めていきましょう。
おわりに
Pricing Strategyは、「利益に対するインパクトの割には重要視されていない」という話で始まりましたが、まさにその通りでした。必要なコンセプトを一から学ぶことができる良い機会でした。
授業の最後は、とにかく「Product Defferentiation」を意識することが大事!と締めくくられました。
Period1のマーケティングの授業はこちら
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