今回は、IE Business Schoolで学んだ、Strategyの授業を紹介します。正解がない「戦略」というテーマに対して、いかに自分のポジションを取り、周囲を説得して巻き込んでいくか、ということを学びました。
授業の目的
この授業は、「ビジネスで競争優位性を確立・維持するための意思決定」を学びます。必要な知識として、ミクロ経済、産業組織論、組織経済学、フレームワークを学びます。こうした理論を、現役コンサルパートナーと、元コンサルパートナー(今は大手IT企業の幹部)がペアを組み、ビジネスに活かせるように落とし込んでくれます。
カリキュラム
カリキュラムは大きく3つのパートに分かれます。1_Competitive Strategy、2_Industry Dynamics、3_Corporate Strategyです。戦略とはから始まり、業界→企業と見ていきます。
1_Competitive Strategy
ここでは、戦略全般について学びます。
戦略とは?
戦略(せんりゃく、英: strategy)は、一般的には特定の目的を達成するために、長期的視野と複合思考で力や資源を総合的に運用する技術・応用科学である
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%88%A6%E7%95%A5
ざっくりいうと、リソースの配分(やらないことを決める)ということですね。
戦略は10回テストする
戦略にまつわる誤解を解くことからこのコースが始まりました。
授業のあと、「10回フレームワーク」を使って「COVID-19に対する各国政府の対応」を分析し、オンライン掲示板で議論しました。「10個全て満たす戦略は1%」とも言われており、クラスメートのツッコミがたくさん入っていました。面白い記事なので、読む価値ありです。
戦略はなぜ難しい?
戦略の難しさは、強力なコミットメントが必要、大胆なトレードオフを選択しなければならない、時代のトレンドを先読みしつつネガティブな不確実性に備え、マーケットの力によって利益が削られていくのを防ぐ、という全てに対応しなければならないからです。
戦略立案のステップ
戦略策定の7つのステップが紹介されました。
- Frame(課題設定)
- Diagnose(なぜ儲けることができるのか?)
- Forecast(どんな未来を目指すか)
- Search(どんな選択肢があるか?)
- Choose(どんな選択肢を選ぶか?)
- Commit(どうやって加速させるか?)
- Evolve(何を学んで、何を変えるか?)
1から順番に説明していきます。
1_Frame
ビジョン、経営戦略、事業戦略という、根本になるものから順番で定めていきます。
2_Diagnoseと3_Forecast
利益の源泉となる競争優位性は、外部環境と内部環境という2つの観点から説明できます。
一つ目は、Positional Advantageです。外部環境、すなわちマーケット構造や業界構造が当てはまります。つまり、どこで戦うかということです。
二つ目は、Proprietary Advantageです。内部環境、すなわちリソースや企業の強みが当てはまります。
4_Search
企業の成長を目指す時に、どこで戦うのか or どう戦うのか、という問いが重要です。
ポートフォリオ(伸びてる分野や地域で伸ばす)、シェアアップ(他社のパフォーマンスを上回る)、M&Aという3つの手段があります。
5_Choose
意思決定です。
6_Commit
リソースや方向性を調整しながら、実行していきます。
7_Evolve
反省を生かし、また1に戻ります。
2_Industry Dynamics
業界レベルでの戦略を学びました。
マイケル・ポーターのフレームワーク
続いて、ポーターのファイブフォース分析について議論しました。
ビジネス+IT
また、ポーターの3つの基本戦略(コストリーダーシップ 、差別化、集中)も同時に学んでいきます。
ビジネスの教科書
ウォルマートを事例にコストリーダーシップ戦略、地方のビール醸造所(ブルワリー)を事例に差別化戦略を学びました。
【お知らせ】このたび、ウォルマートのケースをもとに事業戦略が学べる、「オンラインゲーム」を開発しましたので、奮ってご参加ください。
ゲーム理論
クラウドサービス業界は、実際はAmazon、Google、Microsoftの寡占状態なのですが、それに関連して、ゲーム理論を体感できるシミュレーションゲームをやりました。
寡占市場では、少数の企業がライバルの動向を意識しながら競争をしていますが、A社がB社の動向を読み行動する、B社やC社も同様です。そうした行動に一定の解を与えるのがゲーム理論です。少人数のプレーヤーが互いに相手を読み取った場合、どのような帰結になるかを研究する分野になります。
Ferret
ネットワーク外部性
アンドロイドとiOSのケースを使い、「業界スタンダード」を巡る争いや、ネットワーク外部性について学びました。ネットワーク外部性とは、商品自体の品質といった内部要因ではなく、利用者が増えることで利便性が高まり、結果として商品価値が高まるという外部的要因のことをいいます。プラットフォームビジネスが当てはまりますね。
Gozonji
バリューチェーン
自社や競合他社の事業を機能別に分類し、どの工程においてどのくらいの量の付加価値が生まれているのかを分析します。大手クラウドサービス企業のケースを扱いました。
BIZHINT
ここで重要な概念が、「Value Creation(価値創造)」と「Value Capture(価値獲得)」の違いである。価値創造とは、新たな技術や新商品の開発をすることである。ドラッカーもイノベーションの定義で「価値創造」について言及しています。
Innovation is the means by which the entrepreneur either creates new wealth-producing resources or endows existing resources with enhanced potential for creating wealth.
Peter. Drucker “Innovation and Entrepreneurship” (1985)
しかし、価値創造だけでは、社会も企業も豊かにはなりません。企業は経済価値(付加価値や利益)として価値を獲得(価値獲得)しなくてはならない。日本企業が今まで苦手としてきたところですね。
業界のライフサイクルと新規事業
ここでは、米国ブロックバスター社(ビデオ・DVDレンタル店、米国のTSUTAYA)と、Netflixのケースをもとに、業界のライフサイクルと、新規事業について考えます。
これはケースを紹介したいのですが当然できないので、良いブログ記事があったので代用します。
Note:翻訳書ときどき洋書
Netflixは、DVDの郵送レンタルサービスからスタートし、ストリーミング配信、オリジナルコンテンツ制作へと、大胆にビジネスモデルを変革してきた。このように、Netflexは業界の成長性や成熟度を見ながら、次々と新たな分野に挑戦していることがわかりますね。
事業のライフサイクルで、導入期、成長期、成熟期、衰退期という考え方がありますが、業界にも同様のライフサイクルがあり、NetflixはうまくS字カーブを捉えているのでしょう。
3_Corporate Strategy
最後は、企業レベルの戦略を見ていきましょう。企業戦略とは、複数のマーケットにリソースを配置し、シナジーを生み出しながら、価値を生み出していく活動と定義できます。
アントレプレナーシップ
イスラエルの製薬会社Tevaのケースを扱いました。後発薬メーカーであるTevaのコストリーダーシップ戦略と、先発薬市場への参入の是非について議論しました。
多角化とシナジー
多角化は新たな価値を生み出すのかという問いに対しては、一般的にはNOです。なので、多角化を進めるには3つのテストを合格しなければいけません。
- シナジーテスト:分野の違う会社を所有することで、企業内で新たな価値を生み出せるか?
- 内部化テスト:内部化のコストより大きな価値を生み出せるか?
- 適切テスト:他のオーナーより、自分たちが価値を生みされるか?(自分たちは適切なオーナーか?)
多角化のメリットはスケールメリットとポートフォリオが安定すること。逆に、デメリットは組織の管理コストが増加したり、儲からない事業が儲かる事業の利益を食いつぶす、ということが挙げられます。
ここでは、マッキンゼーの組織に関するケースを扱いました。こうした多角化企業において、機能に焦点を当てた組織にするのか(機能別組織)、顧客に焦点を当てた組織(事業部別組織)にするのかを考える必要があります。この2つの組み合わせている会社も多いですが、重要なのは各組織に権限を委譲することです。
Arukube
垂直統合と水平統合
シナジーの出し方として、垂直統合(サプライチェーンで扱う範囲を拡大)、水平統合(特定の工程を担う複数の企業が一体化)という2種類の統合を学びました。
野村総合研究所
まとめ
最後の授業では、3つのケースを取り上げ、今まで学んできたことを総まとめしました。
まとめ①(Sprint社)
ソフトバンクが買収したことで有名な、米国の通信会社第3位「Sprint」のケースを扱いました。寡占市場による規模の経済と、ソフトバンクが目指した第4位「T-Mobile」との合併について議論しました。
まとめ②(BP社)
Oil & Gas業界の巨大企業、「BP」のケースを扱いました。こちらも規模の経済と、垂直統合(生産→輸送→販売)について議論しました。
まとめ③(Cola業界)
コカコーラとペプシコーラによる、「コーラ戦争」のケースを扱いました。こちらは、コーラ業界の「原液メーカー」、「ボトラー」のフランチャインズの関係から、利益を生み出す仕組みについて議論しました。
おわりに
ストラテジーの授業は、正解がない中でいかに自分のポジションを取るか、ということを学びました。毎回実起業のケースを読み、知見を蓄積していくため、こういう時はこの戦略、このフレームワークといった、自分なりの型を身につけることができたと思います。
次は、「オペレーション戦略」について見ていきましょう。